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東京高等裁判所 昭和60年(ラ)203号 決定 1985年7月30日

抗告人

渡部公也

外四七名

右抗告人ら代理人

築尾晃治

相手方

破産者新日本興産株式会社

右代表者

木村敬一

右破産管財人

原田一英

右抗告人らから東京地方裁判所昭和五八年(ミ)第二号会社更生手続開始申立事件について同裁判所が昭和六〇年三月三〇日にした棄却決定に対し適法な即時抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件各抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取消す。相手方新日本興産株式会社(以下「破産会社」という。)につき会社更生手続を開始する。」との裁判を求めるというにあり、その理由は、別紙抗告理由書記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  抗告人らの抗告理由について

当裁判所は、記録によれば、破産会社には破産手続が係属中であつて、会社更生法三八条四号所定の更生手続開始申立棄却事由があり、本件更生手続開始申立は棄却を免れず、抗告人らの抗告は理由がないものと判断する。その理由の詳細は、次のとおり付加するほかは、原決定の理由と同一であるから、その記載を引用する。原決定に抗告人ら主張のような事実誤認、審理不尽、理由不備は認められない。

(一)  抗告人らは、原決定の認定する本件栃木梓ゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)の売却予定価格は単なる推測にすぎず、原決定は更生管財人候補者の一人である加賀美勝の更生計画案の真意を十分検討していない旨主張する。

記録によれば、本件ゴルフ場はその敷地面積が一九八万七〇二二・八一平方メートルに及び、その敷地のうちには未解決私有地九筆九八八〇平方メートルと国有地(道路、水路等)二万二五三四・二二平方メートルが含まれているが、大部分を占める三〇三筆一九五万四六〇八・五九平方メートルは破産会社所有地として登記済であり、未登記分九筆についても、一筆を除き実質的に解決されていること、国有地についても、道路廃止申請が昭和五八年七月に県を通じて建設省及び大蔵省に提出され、栃木県都賀町の同意を得、昭和五九年二月には隣地所有者(利害関係人)の同意もすべて出揃い、現在栃木県において審理中であり、右ゴルフ場の一括売却可能の条件は概ね整つた状況にあること、破産会社に対しては、昭和五一年一〇月一二日東京地方裁判所において破産宣告がなされ(同裁判所昭和五一年(フ)第一二九号事件)、破産手続が係属中であり、現在破産管財人原田一英は右ゴルフ場を入札の方法により売却するため入札予定日を昭和六〇年七月下旬、最低入札価格八五億円、入札期日から一か月以内に売買契約を締結し(但し、裁判所の許可を条件とする。)、契約後一か月以内に売買代金額を現金又は預金小切手で支払うものと定めてその旨公告し、右入札手続がすゝめられていること、現在ゴルフ場を新設する場合の投資額は九ホールで五〇億円が一応の目安とされていること、本件ゴルフ場には、ゴルフ施設として樫の木、白樺、ユーカリ、杉の木の四コース、三六ホールがあり、昭和五七年二月一日以降昭和五九年一月三一日までの間の入場者数は毎年七万人を超え、安定した営業収益を挙げていること、破産管財人原田一英の下には二〇社位から、本件ゴルフ場を九〇億ないし九五億円で買受けたい旨の申出がなされていること、本件ゴルフ場の処分見込価格は上昇傾向にあることが認められる。

右事実によれば、本件ゴルフ場は九〇億円を上廻る価格で入札される蓋然性は極めて高いものと認めるのが相当である。

ところで、更生管財人候補者加賀美勝提出にかゝる昭和和五九年七月一八日付上申書(更生計画案)には、

「破産手続における合理的で、かつ、実現可能な責任ある競落価格の上限として私は次の通り試算します。

(イ) 本件ゴルフ場を優良ゴルフ場として維持するための会員数は三〇〇〇名である。

(ロ) 本件ゴルフ場の近隣の相場を参考にすると、預託金方式の会員権の価額は三〇〇万円が相当である。

(ハ) 会員募集のための経費 預託金額の二割相当額

従つて、責任ある者のこのゴルフ場の競落価格の上限は(イ)×(ロ)―(ハ)=九〇億円―一八億円=七二億円」

との記載があるが、右試算をもつては、まだ前記認定を左右するに足りない。

よつて、抗告人らの右主張は採用することができない。

(二)  抗告人らは、原決定が最近における破産会社の営業成績が良好である理由を破産手続中であることによると認定しているのは不当である旨主張する。

記録によれば、昭和五六年度から昭和五八年度までの間の本件ゴルフ場の入場者数、メンバー、ビジターの数、営業収入、営業費用、営業利益は次の(1)ないし(6)のとおりであること、

(1) 入場者数

昭和五六年度 六万八一五六人

昭和五七年度 七万七二七一人

昭和五八年度 七万七五二〇人

(2) メンバーの入場者数

昭和五六年度 二万一八一九人

昭和五七年度 一万四〇六五人

昭和五八年度 一万一八七〇人

(3) ビジターの入場者数

昭和五六年度 四万六三三七人

昭和五七年度 六万三二〇六人

昭和五八年度 六万五六五〇人

(4) 営業収入

昭年五六年度 六億七九〇九万一〇二八円

昭和五七年度 八億一一三一万九一四七円

昭和五八年度 八億八四〇八万〇二五六円

(5) 営業費用

昭和五六年度 六億〇一二七万七九二二円

昭和五七年度 六億〇七二七万一二二九円

昭和五八年度 六億三六〇九万一三二三円

(6) 営業利益

昭和五六年度 六九〇八万六七四〇円

昭和五七年度 二億一三九二万五六六八円

昭和五八年度 二億六六四六万二一一四円

右のような営業収入の増大は、破産会社が破産手続中であることを理由にメンバーの優先利用権を停止し、かつ、営業費用の節減につとめていることの結果であることが認められる。

よつて、抗告人らの右主張は採用することができない。

(三)  抗告人らは、破産会社が払下申請中の国有地については隣接のゴルフ場を所有する富士工が利害関係を有し右払下申請に反対しており、富士工との間に種々の疑惑もあつて、これらの問題が解決しない限り破産手続を終結させることはできない旨主張する。

前記のとおり、本件ゴルフ場の用地の面積は一九八万七〇二二・八一平方メートルに及び、右敷地内に含まれる国有地(道路・水路等)の面積は二万二五三四・二二平方メートルにすぎないところ、破産管財人原田一英は右ゴルフ場は一括売却可能の条件が概ね整い、昭和六〇年七月下旬入札の方法により売却する旨公告し、右手続をすゝめているのであつて、右売却が不可能である事情を認めるに足りる証拠はない。また、抗告人らの指摘する富士工との間の疑惑についてはこれを認めるに足りる証拠がない。

よつて、抗告人らの右主張は採用することができない。

(四)  抗告人らは、坂野滋調査委員のアンケート調査の方法は、説明資料が不足している状態でされたもので、不適切であつた旨主張する。

記録によれば、東京地方裁判所は昭和五八年一二月一九日坂野滋を調査委員に選任し、破産会社について (イ) 更生手続開始の原因たる事実の有無 (ロ) 会社の業務及び財産の状況 (ハ) 会社の更生の見込みの有無 について調査を命じたこと、同調査委員は、破産会社の預託金債権者が債権者数の九九パーセント、その債権額は総債権元本総額の九〇パーセントを占めており、更生手続が可能であるか否かは預託金債権者の意向に大きく左右されること、更生手続による場合会員権の維持を希望する債権者は、無利息の債務弁済原資を調達するため残留会員数に応じ相当額の預託金追加支払を必要とすることから、約一万人の預託金債権者に対し、「(1) 更生手続による会員権の維持を希望し、下記いずれかの預託金追加支払に応ずる。A 会員数を三五〇〇人に限定した場合 二五〇万円 B 会員数を三〇〇〇人に限定した場合 三〇〇万円 C 会員数を二五〇〇人に限定した場合 三五〇万円 〔A〜Cのうち選択したいものに○印をつける〕 (2) 預託金の追加支払には応じられないが更生手続には賛成する。 (3) 破産手続による配当を希望する。」の三項目につき賛成のものに○印をつけて回答する方法でアンケートを実施したこと、その結果、預託金債権者のうち会員として残留を希望するものは全預託債権者の二割を越えず、過半数の債権者は弁済を望んでいることが明らかとなつたことが認められる。

以上の事実によれば、同調査委員のアンケート実施の方法が不適切であつたということはできない。

よつて、抗告人らの右主張は採用することができない。

(五)  抗告人らは、原決定は本件ゴルフ場の破産債権者間に三つのグループが発生し、この三つのグループはいわば三つ巴の状態で拮抗し、申立人らのグループを除く二つのグループは本件申立に強く反対している旨認定しているが、各グループは更生手続遂行の方向で団結できる筈であり、原決定の認定は不当である旨主張する。

記録によれば、現在破産会社の債権者間には三つのグループが存在し、破産手続によるか会社更生手続によるかについて意見が分かれており、本件ゴルフ場の買取りを希望する梓の森ゴルフ株式会社(代表者渡辺貞之助)のグループは、約三〇〇〇人の会員を集め、他の買受希望会社である株式会社梓カントリークラブ(代表者増田六郎)のグループは約一〇〇〇人の会員を集め、右両グループの対立は根強く統合することは困難であるが、両グループとも破産手続によることを希望している点では意見が一致していること、本件申立を支持し、会社更生手続によることを希望する他の一つのグループが仮に抗告人主張のとおり二〇〇〇人をこす同調者を獲得することができたとしても、前記二グループとの対立抗争を解消することは困難であり、会社更生手続の遂行にとつて著しい支障となることが認められる。

よつて、抗告人らの右主張は採用することができない。

(六)  抗告人らは、破産手続による場合は本件ゴルフ場の従業員が職を失うことは確実であるのに従業員の継続雇用が保証されるが如き原決定の認定は不当であると主張する。

記録によれば、本件ゴルフ場の買受希望者のほとんどは従業員を再雇用する方針であること、破産管財人原田一英は本件ゴルフ場の入札公告に際し、特記事項として、現従業員(一二五名)の再雇用を条件とする旨掲記していることが認められるのであり、右事実によれば、破産手続による場合においても従業員は再雇用される可能性が高いものといわなければならない。

よつて、抗告人らの右主張は採用することができない。

(七)  抗告人らは、原決定は更生手続による方がプレー権の確保という点で格段に有利であるとは一概に断定できず、かえつて残留を希望する債権者数が適正会員数より多いときはどのような基準で会員の選別を行うかという困難な問題に逢着する旨認定しているが、更生手続において残留希望者の調整を行うことはそれ程困難でなく、原決定の右認定は不当である旨主張する。

記録によれば、本件ゴルフ場はその規模からみて正常な経営を継続するためには会員数を二五〇〇ないし三五〇〇人程度に限定することが適当であるところ、現在本件ゴルフ場のプレー権を有する預託金債権者は九三〇〇人前後に達していること、従つて仮に更生手続により本件ゴルフ場の経営を再建するためには右プレー権を有する預託金債権者を適正会員数にまで減らすことが不可缺の課題となるが、右預託金債権者間には三つのグループが存在し、右グループ間において利害が対立し、更生手続によること自体について意見が統一されていないのであり、残留会員や追加徴収預託金の額を決定することは極めて困難な状況にあること、預託金債権者の過半数は本件ゴルフ場を売却することにより高率の配当が期待されるところから、破産手続による早期弁済を望んでいることが認められる。

右事実によれば、プレー権の確保を希望する一部預託金債権者の利益のみを強調し、更生手続を選択することは、債権者一般の利益に合致するものとはいえないのであつて、原決定の前記認定に誤りは認められない。

よつて、抗告人らの右主張は採用することができない。

(八)  抗告人らは、本件ゴルフ場は一三〇億円で処分することも不可能ではなく、破産債権者に対し一〇〇パーセントを超える配当の可能性が認められるから、破産手続ではなく、更生手続によるべきである旨主張する。

しかしながら、記録によれば、破産会社が「会員資格保証金」の名義で各会員から預託を受けた金員の返還債務は、その総額が債務総額の九〇パーセントを超えており、その債権者数は債権者総数の約九九パーセントをしめているところ、預託金債権者間に三つのグループが存在し、その間に利害の対立があり、過半数の債権者が破産手続によることを希望していることが認められるのであるから、破産手続によれば高率の配当がされるという理由で、破産手続によらず更生手続によるべきものであるということはできない。

よつて、抗告人らの右主張は採用することができない。

2  そのほか、記録を精査しても、原決定を取消すに足りる違法の点を発見することはできない。

3  そうすると、原決定は相当であつて、本件各抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人らに負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官川添萬夫 裁判官新海順次 裁判官石井宏治)

抗告理由書<省略>

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